『守護霊の存在を感じさせる奇跡の出会い』
60余年前に潜水艦伊166とともに撃沈された海軍大尉の父。
当時3歳だった著者は父に対する尊敬と喪失感を胸に秘め、
ビジネスコンサルタントとして仕事に追われる。
しかし、還暦をすぎ、世界旅行の途中で寄ったモニュメントバレーで
父の最期を突き止めようと決意したことから、父の霊に導かれるようにして、
父の潜水艦が沈めたオランダ潜水艦将校の遺族、父の潜水艦を沈めた
イギリス潜水艦の艦長とその一家などに出会い、日英蘭3家族の和解が実現する。
平和なときであれば、善良な市民であり、互いによき友となれる人たちが、
国を守り、家族を守るために戦場に赴き、殺しあった。
この本は、戦争というものが、どんな美名のもとに行われても、
実体は誰かのかけがえのない家族の命を奪う行為であり、残された遺族はもとより、
勝者でさえも、何十年にもわたる心の傷や喪失感に苦しんだことをリアルに伝えてくれる。
日本人は原爆の悲惨さは伝えても、戦争を知らない和い世代にかつて日本軍が
オランダ人の捕虜をはじめ、他国の大勢の人たちにいかに残虐な行為をしたかを教えようとしない。
「水に流す」のは日本人の長所かもしれないが、歴史と真摯に向き合い、
「個」の痛みに思いを馳せることなしに、真に国際的な尊敬を勝ち得る国になれるはずもないと、
3世代目の子供たちがアイルランドの古城で語らう場面を読んでつくづく思った。
本の最初に著者の父の遺書が掲載されている。
「汝等いまだ幼くして よく父の面影だに思ひだすまい。
しかし、この父は この魂は必ず そちら二人の身辺から 寸刻も離るまじ」。
読後にもう一度、この手紙を読み返し、親の愛というものは、
この世から肉体が消えても子の上に留まるものかと胸が熱くなった。
私はスピリチュアリズムの信奉者ではないが、
守護霊の存在を信じずにはいられない奇跡の出会いであり、本である。