『ソクーロフは言葉の魔術師でもある』
ソクーロフの対話を読むたびに、彼はなんと一級の語り手であることかといつも驚かされる。繊細な感覚に支えられた映像世界を裏打ちするのは、ソクーロフのなかにある明晰な言葉(詩)の世界なのだ。
この本でも、自分は文学を崇敬するものだということを公言してはばからない。ドストエフスキー、チェーホフ、ヒトラー、島尾敏雄など、いつも意外な人物を召喚して私たちの度肝を抜く。ソクーロフは活字を通じて霊感を受けたものを、自分のイマージュの糧にし、映画作品に変えてしまう魔術師なのだ。
吉増剛造、島尾ミホといった日本が誇る言葉の導師たちが、ソクーロフの独特の内省的な語りにどっぷりつかっていく。やはり「ドルチェ」を監督したのは、他でもなくソクーロフ本人だったのだ。
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