『力なき正論』
週刊誌連載エッセイの3年目、2000年分をまとめた本である。第1作「人生は五十一から」(1998年分)の鋭い切れ味に比べて第2作「最良の日、最悪の日」では疲労感が濃くなり、さらにこの第3作では虚脱感が感じられる。世相の悪化を反映している、というのが本人の感想であろうと思うが、むしろ著者の心境の変化、と言った方がよいのではないか。それほどに、本書の内容は暗さを増している。
本書では芸談、映画論議も減り、世の中で起こるさまざまなことに、怒りを通り越して、もはや諦念としかいえないような反応をしている。大マスコミにもはや何の期待も持てず、すでに大本営発表と同じ機能しか果たしていない、という指摘は、恐らく大方の予想を超えているだろう。かつてテレビで活躍した著者が、もはやテレビを見限り、ラジオの行く末にも不安を投げかける。正しいことを知る術を奪われた私達は確実に、終末に近づいているらしい。
田中康夫の長野県知事当選を手放しで喜ぶなど、ちょっと唖然とするほど単純な部分も見えるが(前年には青島幸男で喜び、さすがに「文庫版のためのあとがき」で自己批判していた)、こうしたことに期待するしか、もうどうしようもなくなっているのだろう。老境にさしかかった著者には、きわめて生きづらい世の中なのだと思う。そしてそういう国でこれからも生きて行かねばならない若い世代には、この先どんな不幸が待っているのであろうか。
次へ